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25歳の目覚め――日替わりコラム(火曜日:luxemburg)
 25歳の頃というと80年代だから、ずいぶん昔の話だ。ええっと、あのときが23で、それからあれが24で、と思い起こしてみれば、25歳は、そうか、結婚して最初の子供が生まれるのがわかった頃だ。



 あのころは今以上にものを考えず、幸せに子供を育てていけばいいとだけ思っていて、またその生活がずっと続くと思っていた。最近では、子供を産んでも将来が不安で生む気になれない、という話も聞くけれど、その頃はそんな話はほとんどなかった。子供をたくさん産んで野球チームを作るんだ、というような景気のいい話もまだあちらこちらで聞かれる時代だった。
 私も本当に何も考えなかった。仕事のこと、妻の体のこと、胎教って効果あるのか、賃貸か持ち家か、その程度のことしか考えてなかった、というかその程度のことで悩み、いつもおろおろしていた。逆に言えば心配らしい心配はなかった。
 ただ、小さい頃から鉄道が好きだった私にとって、社会問題でひとつ気がかりだったのが国鉄のことだった。先に言っておくと、鉄道がすきといっても、列車の写真をとったことはないし、駅の備品、ましてや制服などをオークションで買ったことなどもない。ただ列車に乗ってむせ返るような夏の畑のにおい、気候によって表情を変える風景を見るのが好きだっただけだ。全国に張り巡らされた鉄道網を郵便制度とともに誇りに思っていたし、それがいつまでもあればいいなと思って、私鉄で行くことのできる場所でもできるだけ国鉄に乗った。全国一律の料金でどんな人でも運んでくれる、弱者にもやさしいこの仕組みが好きだった。その頃までは車も持たなかった。
 だから、国鉄の分割民営化は日本を破壊するんじゃないか、漠然とそういう気がしていた。法改正によって毎年のように国鉄の運賃が上げられ、国民の不満がたまるように演出され、一方で、国鉄職員の些細な不祥事が毎日のように報道された。身近に国鉄職員がいたわけではなかったが、なんだかいやな世の中になってきた、社会になにかすきま風のようなものを感じるようになった。国鉄改革について、経済学者の都留重人さんが現状のままでの改革案を出すと、政府側から「それでは組合がつぶせない」という本音が出てきたりして、社会の動きの中にどす黒いものを感じるようになった。元々ものを知っている人からすれば、そのころまで何も考えなかったなんてどうかしていたのかもしれないが、やっと自分が親になる自覚を持つ頃から少しずつ社会に興味をもつようになった。
 国鉄のことが気になって4CHの深夜のドキュメント番組をみたときのことを今でも覚えている。番組の内容は、不動産会社と政治家が組んで汐留の貨物駅の広大な敷地を狙っている。それを当てこんだほかの業者が、周辺の土地を買い占めようと動き出した。一方で、政治家は労働運動をつぶそうとしている。そんな大事なときに国民はマスコミのいうがままに国鉄「改革」の中身を知らず、与党にとてつもない数の議席を与えてしまった。番組の中でインタビューを受けた女性は「分割民営化?いいんじゃないですか。個性が出て」。確かそんな番組だったと思う。これから親になる自分にとって、子供が育つこの国の将来は大丈夫なのか、と漠然と不安をもった。
 最近、かつての首相が、あの頃自分が労働運動をつぶしたんだ、と自慢気に語るのをきいて、「そうそう、そうだったね、やっぱりそういうことだったんだね」と、寝覚めの悪い朝のように思い出した。

 子供が育つこの国、子供が大きくなった頃どんな国になっているんだろう、私がいろんなことを考え始めた時期、それが私の25歳だった。あのころから自分の中で育ち始めた漠然とした不安感がいま子供とともにとても大きくなった。同時に私が日本の国や自然について持っていた憧れや誇りがずいぶん小さくなってしまった。
 どんなに懐かしくてもあの頃に戻れない。でも若い頃の自分に戻りたいわけじゃない、小さくてかわいかった子供に会いたいんじゃない。でもあのころ社会全体がかろうじてもっていた暖かさに戻ってきて欲しい。振り返ってみていま、昨日より今日、今日より明日と豊かになっていった頃のことを鮮やかに思い出す。

<編集後記>
 どうもこのコラムになってから、過去を振り返って懐かしむことしかできてない自分に嫌気がさしています。今週こそ、と思っていたら、ズバリ「25歳」だもんなぁ、素楽さん、恨むぜ。
 考えてみたら、本来振り返らなくていいはずの「愛」で過去を振り返ってしまったのが失敗だったんだ! あそこで、結婚にあこがれていた・・・なんて言っちゃったから。次は「忘れていたもの」だったから過去を振り返るしかなくて、今回は、25歳が未来ならよかったんだけど・・・(涙)。
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by uts_home | 2006-05-09 00:04 | コラム
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