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見上げた空の彼方には……by 【Les Chemins De La Liberte'】 kikyo
以下は、今年8月17日に自殺した少年(12歳)の遺書である。

 遺言書

最近 生きていくことが嫌になってきました。クラスでは「貧乏」や「泥棒」と言う声がたえず響いていて、その時は悲しい気持ちになります。それがもう3年間も続いていて、もうあきれています。それに、毎日おもしろおかしくそいつらは笑っているのです。そう言うことでこの度死ぬことを決意しました。

私が、死んだ後の物はAとBで分けて下さい。机にある小判は私だと思って持っていて下さい。AとBは僕の分まで長生きして、いい職について下さい。

いつも空から家族を見守っています

さようなら

いままで育ててくれてありがとう

     母さん父さん

By.○○ 

(注=A、Bは弟、○○は本人の名前)


この拙くも切ない少年の「最期の言葉」を何度も読み返しながら、僅か12年しか生き続けることができなかった彼の悲愴なる孤独を想った。

たった数行の文章からでさえ伝わってきたのは、あまりにも繊細でもろい「弱さ」。そして其れを遥かに凌ぐ、家族への「強い」愛情の発露であった。




たとえ自分の肉体がこの世から永遠に消えようとも、空からみんなを見守っているから安心して……という少年の想いは、僅かばかりに残された儚い「希望」でもあったのだろう。
もう、生きられない。けれど、いつまでも愛する家族のもとにいたい。彼は遺書を綴りながら、その想いを「いつも空から家族を見守っています」という言葉に込めた。

自身を「ぼく」ではなく「私」と形容し、両親を「父さん母さん」と呼びかけていることからみて、家庭内では親を慕い弟たちを気遣う少し大人びた少年だったのだろう。報道によれば、母親は「遺書を見て、家族のことを考えていて、最後まで優しい子だったのだと思い、泣き崩れました」という。

命果てるその瞬間にまで「いままで育ててくれてありがとう」と、家族への思いやりを忘れなかった彼の優しさは、両親や弟へとしっかりと刻み込まれたに違いない。そして彼の死を眼前にした家族は、二度とこんな想いをしたくない、させたくもない、とも思ったことだろう。


親殺し/子殺しという極めて異常な「殺人」行為でさえ、いつしか我々は慣らされていく。
ましてや「ありふれた」イジメを苦にした少年少女の自死に対して抱く感情とは「これも世情の反映だよ」と、虚無的に世相を皮肉るぐらいである。



格差社会の底辺にいながらも、他者の「痛み」を感じることが出来ず、気に食わない者を「貧乏」「泥棒」と嘲笑う極めて自己中心的思考は、何も自我に目覚めた子どもたちの閉ざされた世界にのみ起こるものではない。

体格だけは一人前の大人になるほど、その陰湿で卑劣な言動は更に倍加されていく。
例えば、過日の五輪国内立候補都市選考に於いて、私が嫌悪するレイシスト知事が政治学者姜尚中に対して「怪しげな外国人」「生意気だ、あいつは」と公然と暴言を吐くブザマな醜態や、ネット上に溢れる中国や韓国等の人々を蔑む似非保守/右翼の雑言を視れば、膠着した劣等感に起因する差別/排外への粘着ぶりは、子どものイジメと何ら差のない幼稚な思考として改めて捉え直すことができる。この「立派」な大人たちの価値など、子どもたちにとって「反面教師」以外の何ものでもない。


さらには、自民党が「政策」課題のひとつとして挙げている『教育基本法改正』、つまりは幼少期から国家に殉ずる「特攻精神」をぶち込むことを目的とした「教育勅語改訂版」の「解説」から抜粋すれば

経済的な豊かさを達成してきた過程で、現在の社会を築いた世代を尊敬する意識が失われ「自分さえ良ければ」という自己中心的な子どもが増えてきました。 国民の間での自信喪失とモラル低下、青少年による凶悪犯罪の増加、学力の問題が懸念され、教育現場では、いじめ、不登校、学級崩壊など深刻な危機に直面しています。今こそ、教育の根本にさかのぼった改革が求められているのです。

日本人としての誇りと自信を持つ、夢を持つ、そうした教育がないがしろにされてきたと思います。愛国心を教えないのは日本だけです。今、改正をやらなければ次の五十年に影響する」と訴えます。


と、まるで「愛国心」さえ植え付ければ、子どもたちのイジメ/不登校/学力低下は解消できるかの如き能天気なデマゴギーを堂々と公開している。戦前の血まみれの愚劣思想をそのまま流用したものであり、現代の子どもたちの視点/目線に立った「改革」など全く考慮していないのは明白であろう。


比して、冒頭で引用した少年の拙い遺書は、自民党の虚飾まみれの駄文/卑劣思想を遥かに凌駕する内容を含んでいる。「生きること」「家族」「思いやり」「愛情」……痛切に語りかけてくる圧倒的な文言を前にして、自民党「教育基本法改正案」などゴミ屑同然である。

少なくとも、子どもたちにとっては何万倍もの価値を少年の遺書は持っているだろう。


きっと、見上げた空の彼方から見守っているであろう少年。
私には、彼の家族ばかりではなく、数多の人々に対しても、天空から語りかけているように思えてならない。
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by uts_home | 2006-09-04 21:29 | コラム
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