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カムイの風 by「再出発日記」くま
テーマは「風」と聞いて、真っ先に頭の中に思い浮かんだのは、黒澤明「七人の侍」(1954)の最後の場面だ。村の外れにそっと並んだ土饅頭の上を強風が渡っている。勘兵衛は言う。「また負け戦に終わったな」「勝ったのは百姓たちだ。われらは風だ。彼らの上をただ通り過ぎていっただけだ。」革命における、「土」と「風」の関係は、劇画家白土三平に大きな影響を与え、やがて長編劇画「カムイ伝」に結実する。

「カムイ伝」において「風」はどのような役割を持ったのか、ちょっと書いてみたい。紙数の関係でカムイ伝の詳しい解説は省きます。この漫画をきちんと読んだ人で無いと今回はわからない文章のような気がする。あらかじめお断りしてお詫びします。



この作品において、謎の怪人が三つの生命にのみ「カムイ(神?)」と叫んでいるので主人公はおそらく以下の三人(?)でしょう。正助か土を代表し、カムイが風を代表し、白狼は自然を代表している。作者も最初はきちんと物語を終わらすつもりだったのかもしれない。土百姓正助の勝利に抜け忍カムイが絡み、いずとも無く去っていく構図を考えていたのかもしれない。もしかしたら、正助が大規模な逃散を画策して北海道にごっそり移住し、やがてそこでユートピアの地を作る、というぐらいは予定していたのかもしれない。しかし長い連載の間に江戸の封建社会は思いもよらず厳しいことを知り、白土自身も味方の団結が信じられなくなっていった。このユートピア構想は幻に終わる。第一部が終わったあと、長い15年の空白が生まれる。

「神話伝説シリーズ」、現代の神話を描く「女星シリーズ」、そして「カムイ外伝第二部」が始まり、そのまま「カムイ伝第二部」がビックコミック紙上で始まる。ここで初めて白土はカムイ本人に「俺は風だ」と告白させている。しかしその「風宣言」は農民の戦いとはリンクしない。

カムイは力を求めて忍者の世界に入った。力を得れば、自分や家族を抑えていた階級制度から解き放たれるのだ、と信じていたからである。しかし、忍者になってもやはりそこにあったのは明確な縦社会であった。カムイは更なる自由を求めて抜け忍になる。自由を求めて忍になったのに、さらに自由が制限される人生が待っていた。かといって、正助のようにその根本である封建制度そのものに真っ向から挑戦しようという気は無い。

カムイが自分の居場所を見つけるときは、この物語がクライマックスを迎えるところなのかもしれない。

物語は混迷の度を増している。第二部において正助は生きていたことが判明する。しかし放浪の旅に出ている彼に何を見ているのかはまだ聞けずじまいだ。

カムイが風になるときはどんなときなのだろうか。
そもそもカムイは風でいいのだろうか。
「カムイ外伝第二部」で、スガルは母親としての道を選び生活者に戻っていく。スガルには命を捨ててまで守るものがあった。子供たちだ。「女星シリーズ」の最後「鬼泪」は海に生きる男が陸に上がり、一時山を削る事業に手を貸す。そういう生活ができずに、再び海に帰ろうとしたとき、自分を育ててくれた漁師が遭難する。どんなときでも自分の位置を見出せて必ず生きて帰ってきた漁師だったが、その目印(女星)たる山がなくなっていたのである。再び漁師に戻ろうとした男は、そのことを知りまた放浪の旅に出る。

カムイはやがて女星を見つけるに違いないと思う。女星とはどんなときでも動かない目印である。いわゆる北極星みたいなものだ。彼は風でいい。風で無ければ生きていけない。けれども、どこに吹かれていっても必ず見える女星があるはずだ。もちろん、女星とて永遠ではない。けれどもそれがわかった上で自分自身の女星を見つけなくてはならない。

われわれは土だろうか。風だろうか。けれども一人一人に女星は必要だ。

白土三平は同じテーマを繰り返し繰り返し描くタイプの作家だ。きっと以上のような話になるはずだ。2000年連載中断以後、一度ビックコミック紙上において、カムイ伝全集発売の宣伝と一緒に、「カムイ伝第三部近日連載開始」のお知らせが書かれた。それから約三年がたった。現在白土三平氏は75歳のはずだ。もう余り時間が無い。第三部が書かれる日を私はまだ待っている。
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by uts_home | 2007-05-03 20:24 | コラム
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