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「心が軋む時には……」by華氏451度
 すみません、サボリ癖のついた華氏でございます。今回のお題は「○○を紹介します」。うーん、何を紹介しましょうか。紹介したいものは数限りなくあります。でも、あれやこれやと迷った揚げ句、いつもついつい本の類を紹介してしまうのが私の悪習。子どもの頃から本に淫していれば幸せだったせいでしょうか。あるいは本以外のことになるといきなり「どこそこの野菜カレーは旨い」とか「時間つぶしに飛び込んだ小さな美術館でいい絵をみつけた」とか「この間仕事でどこそこに行った時に会ったジイサンが実におもしろい人だった」等々、やたらに地域その他限定的な話題になり、詳しい説明がなければ聞いた方は何が何だかわからん、という状態に陥りがちなせいでしょうか。

 というわけで……やむを得ず?本――というか、物語の世界のご紹介などを。ご紹介というか、お勧め……かな。いや、やはりいつもの通り単なる寝言かも。



◇◇◇◇◇

 kikyoさんが、『幸福な王子』について書いておられる。私も実は、ワイルドの童話集は好きで好きで、子どもの頃から何度も繰り返して読んだ。私はどちらかと言えば『幸福な王子』よりも、『利己的な巨人』や『星の子』のほうが好きな気がするのだけれども……。いや、ワイルドだけではない。私は童話とか民話とか物語とか、そういう世界がたまらなく好きなのだと思う。活字中毒人間の常で手当たり次第に本を読み、その中にはいわゆる小説の類も多いのだけれども、心が軋んで悲鳴を上げている時は、しばしば半ば無意識のうちに童話や絵本を手にとっていることに気付く。

 少し前から「癒し」という言葉がはやっている。この言葉の浅薄な使われ方がイヤでイヤで(すべての言葉は危うい繊細さを持つがゆえに、安売りされた途端に醜悪に成り下がるのだ)、自分ではかなり意識的に封鎖したのだけれども、童話(およびそれに類するもの)から与えられるものを表現するには、やはり「癒し」という言葉が一番ふさわしいような気がする。

 童話などの世界は一種の透明さを持ち、登場するものたちは(すべてとは言わないまでも、ほとんどが)生き物としての原初的な意識と感覚とを持っている。オトナの思惑や社会的規範や常識を遠く離れて、愛し、憎み、歓び、悲しみ、泣き、そして絶叫する。その世界を「単純」「子どもだまし」とせせら笑うオトナ感覚こそ呪われてあれ。ストレートな感性を程度が低いもののように思い、オブラートで包むすべを模索し始めた時、ヒトはおそらく堕落し始めたのだ。簡単なことを難しく表現するのが文化であるような錯覚も、呪われてあれ。無意識のうちにそのことを囁いてくれるという意味で、童話の世界はやはり「癒し」であるに違いない。

『貝の火』(宮沢賢治)の主人公で、舞い上がりゆえに眼が見えなくなる子ウサギ、松茸などを運ぶ『ごんぎつね』(新美南吉)の子ギツネ、涙でカイの心に突き刺さった破片を溶かす『雪の女王』(アンデルセン)の少女ゲルダ、……。たしかずっと前にこのコラムで紹介した『100万回生きたねこ』(佐野洋子)の主人公や、これも紹介した気のする『ニルスの不思議な旅』(ラーゲルレーヴ)の主人公も、私が偏愛するキャラクターの一人(もしくは一匹)だ。何の飾りも衒いもなく生き物としての弱さと優しさと露わにする彼らは、妙に気取った言い回しや小難しい言葉や嘘くさい分析よりも、はるかに――ほとんど無縁なほどはるかに、私の心の底を震えさせてくれる。もっと優しくなりたい、他者とのつながりをいとおしみたいと心から思わせてくれる。

 皆さんも、心の迷路に踏み迷ったときは童話や民話などを紐解いてはいかが。人はそれぞれだから絶対的な確信を持ってお勧めできるわけではないけれども、こんがらがった糸のような精神状態に、わずかでも風穴を開けてくれる――と、少なくとも私は思っている。

 余談だが、私は童話に準ずるものとしてファンタジーも好きだ。ちなみに我が家の居候猫の名は、ポール・ギャリコのファンタジー『トマシーナ』(私が読んだのは旧訳で、『幻のトナシーナ』という題名だったけれども)の主人公の名をもらっている。なかなかおもしろい物語なので、御用とお急ぎのない時に立ち読みをどうぞ。余談ついでにご紹介すると、私のブログで代理人を勤めるムルは、ホフマン作『牡猫ムルの人生観』の主人公の名でありまする。
 
 何だか、まとまりのない文章になってしまった。……再度の機会があった時は、今度こそまともに、ぜひお勧めしたいものをご紹介しましょう。もちろん本ではなく、別のものを。
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by uts_home | 2008-07-16 06:21 | コラム
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