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「星になる」いうこと(あるいは8月末の寝言)by華氏451度
 申し訳ありません、遅れた……というのもおかしいほどマヌケな遅れ方ではありますが、ちょこっと顔を出させていただきました。

 死んだ者について「星になった」という表現が使われることがある。それをなぞって言うならば、ついこの間、我が家の居候猫が星になった。先代の居候猫を猫を死なせた後、友人が「拾って来たんやけど飼わへんか」(この友人は、いつまでたっても関西弁の抜けない関西人なのである)と言って持ち込んだ猫だった。友人はできれば自分で飼いたいような顔つきだったが、飼っている老犬との関係で躊躇したらしい。痩せこけてパサパサして目やにだらけだったその仔猫に、私は先代と同じくトマシーナという名前をつけた。御存知の方も多いと思うが、ポール・ギャリコのファンタジー『トマシーナ』から借用した名である。

◇◇◇◇◇



 私は生き物と共に暮らすのが好きな人間であるようで、小さい頃から犬だの猫だの鳥だの金魚だのをやたらに飼いたがる傾向があった。もっとも父親が亡くなってからは長く犬猫を飼える環境にはなく、友達の家で猫に触ったり、母の実家で犬と遊んだりすることで辛うじて我慢していたのだが(母の実家の近所には山羊を飼っている家があり、そこに遊びに行くのも楽しみだった)……就職してアパート住まいを始めて3年目だったか4年目だったか、雨の日に迷い猫を保護?して以来、ほとんど切れ目なく猫を飼い続けてきた。別に、猫という存在にこだわってきたわけではない。犬でも何でもいい、実のところ馬や牛や山羊や豚や……さらに言えばカンガルーやアザラシでもいいのだけれど、多分、猫というのが、私にとっては最も共棲しやすい動物だったのだろう。出張で2日ぐらい留守にしても何とか大丈夫だし、狭い家でも何とか暮らせるし……。
 おもしろいもので、「あいつは猫を飼っている」ということが知れ渡ると、「拾ったんだけど」だの「仔猫が生まれて困っているんだけど」だのという話が持ち込まれるようになってきたのだ。むろんこちらも何匹も猫を飼えるほどの時間的・精神的・経済的な余裕、さらにはスペースの余裕もなく、重なっても2匹というのがせいぜいであったから、半ば以上は断ってきたのであるけれども。
 
 2代目トマシーナは私と同居し始めてから(実のところかなり劣悪な環境であるにもかかわらず)みるみる太り、さらには凶暴性を発揮し、机に広げた資料を蹴散らしたりパソコンに体当たりしたりして暴れ回り、私に「猫なんざ飼うんじゃなかったよな……」とため息をつかせて約1年。今年の6月末頃(半ば頃だっけか)から具合が悪くなった。病名その他はある意味でどうでもいいことなので書かないが、要するにまぁ「ゲッ」というような難病でありました。
 たかが猫、されど猫。かなり無理を重ねつつ仕事のスケジュールを調整して獣医に通いながら、私は常にかすかな後ろめたさを感じてもいた。自分が飼っている動物だから、自分が共棲している生き物だから、一種のやむにやまれぬ執着に突き動かされて、こんなふうに懸命な思いを注ぐ。これはいいことなのだろうか……と。私もまた、手の届く範囲、眼に見える範囲にしか思いを致せないのであったのかと。
 そんなややこしい思いとは何の関係もなく、2代目トマシーナは死んだ。この別離の感覚は、ほとんど原初的と言えるほどに強烈なものがある。「ペット・ロス」という言葉があるそうだが、そんなシタリ顔の分析・解説なんざくそくらえと――少なくとも今、私は思う。
 6歳の時に父と死別したのを皮切りに、命との別れは何度も何度も経験してきた。長い時間をかけて関係を醸してきた仕事上の友人が癌で無くなったこともあるし、友人の自死の前に言葉を失って立ち尽くしたこともある。それらの別れと人間以外の生き物との別れを、同じ地平に置くのはおかしいという見方もあるだろう。多分、おかしいのかも知れない。しかし私は、関わりというのは「人間と人間」だけのものではない、という気もしてならないのだ。人間と、その他の生き物。さらには人間と、通常言われる生き物ではない存在。関わりをもったすべての存在に対する限りない哀惜の思いと、そして関わりを持ったことに対する震えるような想い。さらに言えば、此の世に無数に存在する「関わり」を貴重なものとして抱きしめる思い……。

 その想念の象徴が、思いの対象を「星」にするのかも知れない。私は俗物だから、満天の星を見て「ああ、トマシーナは星になった」とは実のところ思いにくいのだけれども――そして、すべては無になったというほうが感覚的には近いのだけれども、それでもなお、「星になったのだ」というお伽噺の優しさにホッとすることがあるのも事実である。(関わりが)存在したことを忘れないよ、という微かな呟きであるのだから。

すんません、またしても脈絡のないことを書いてしまいました。……
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by uts_home | 2008-08-31 04:41 | コラム
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