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七歩の詩(30)--日替わりコラム(「逍遥録-衒学城奇譚-」発掘屋)
こんばんは。
「逍遥録―衒学城奇譚―」の発掘屋です。
今回のお題は「辞~めたッ!」と、その反対に「やめたくてもやめられない」もしくは「絶対に続けていくと誓ったこと」です。
このお題にしようかってハナシしたころは福田首相の政権放り投げ事件がおこり、そのあまりの無責任っぷりに乗っかってやれって思ったのですが、そうしたらあ~た、今度は新政権で中山某氏がワケわからん発言をして、何かこうズブズブなカンジで引き摺り下ろされたと思えば、小泉元首相も「政治家や~めた」って云って、ヤバくなる前にトンズラこいたのでございます。

正直、ヒク。
つ~か、ネタにしてやるのもアホらしいので、ソッチ関係は無視。




さて、今回のボクのハナシは「辞~めたッ!」と「やめたくてもやめられない」、「絶対に続けていくと誓ったこと」などが、まあ適当にミックスしたカンジ。
少し前のコトだが、忘れもしない3年前だか4年前だか(忘れてんじゃん)、ボクのコドモが出産予定日の前日のコト。
仕事から帰って、そのころはまだ生きていた老犬を散歩させた時のコトです。
その犬は、相棒の芳乃さんがその1年ほど前に死にかけていたのを拾ってきたもので、もうすぐ死ぬだろうと思っていたら、しぶとくもちなおしたヤツです。
結局、コドモが物心つくまで生きたのですが、よほどヒドイ目に遭ったのか、死ぬまでココロを開きませんでしたが……

仕事から帰ったボクに、芳乃さんは「多分、明日には生まれると思う。そんな気がする」と、自身ありげに断定しました。
その時のボクは「あぁ、そうか……」と思っただけで、いつものように犬に引き綱をつけると、暗い夜道を駆け出しました。
ボクの家の周辺は、集落を出たら一面の水田や畑です。
まだ青い稲や麦が、月明かりに蒼々と輝いていました。
折りしも台風が上陸する予定で、すでにその走りの風は、普段とはまるで違う奥の深い場所から吹いてくるような重みがありました。
そんな風の中、農道を老犬ととてとて歩きつつ空を見上げると、驚くほどに真円を呈する満月が浩々と銀光を放ち、世界は不思議な陰影をもった輝きを持っています。
颶風は薄墨のような雲を途切れ途切れに吹き散らし、それが時折月をかすめ、その度に世界はボクの脚元に奇妙な影を走らせるのです。
麦や稲は、頸草のごとくに轟々と音をたてる風にあがらい、一面の畑や水田は何者かの騎行のように激しく波打っていました。
出歩く者は誰もいません。
老犬が立ち止まり、珍しく甲高い声でひと鳴き。
ぞっとするほどに、奇妙に真空な時間の中に、ボクは立っていました。

その時突然、ボクは理解しました。
不思議なコトです。
元々、モノゴトを深く考えない質のため、コドモが生まれるってコトがどんなコトなのか、たいして真剣に考えていなかったボクが、その意味を不意に理解した――あるいは気がついたのです。

明日からの自分は、もう今日までの自分とはホントに別のモノであるコトにです。
ボクは今日までは自分のために生きてきた。
でも明日からは、ボクは別の誰かのために生きていくコトになるのだ――と。

あるいは錯覚かもしれないし、あるいは自己陶酔だったのかもしれない。
今頃、コドモが生まれようとする前日に、ようやくそんなコトに思いいたった自分の間抜けさ加減など、笑うしかないのかもしれない。
また人が他人のために生きようなんて、滑稽な自惚れなのかもしれない。

しかしそれでも、あの時間あの場所で、ボクは何かを見たし、何かに触れた。
ボクがそれまで立っていた階梯の一段は、音も立てずに破片ものこさずに粉々に砕け散っていた。
では今ボクが立っているこの段は……?
ソレを知覚するコトは、もうできない。
でも、あの時の嵐の風が、まるでコレまでの自分を吹き飛ばしていったかのように、ボクは自分の世界の変革の瞬間を、きっと見たのです。

コレが、ボクにとってコレまでの自分を「辞~めたッ!」と脱ぎ去ったハナシ。
そしてコレから自分に課せられた自分を「やめたくてもやめられない」ハナシ。
さらにソレを「絶対に続けていかなければいけないと知った」ハナシ。
そんな、誰も知らない夏の嵐が来る前の夜の夢。

……でも初産は遅れるって法則に則って、生まれたのは2日後。
芳乃さんが「明日生まれる」って云ったのは、やっぱり何の根拠もない思い込みだったのです。
分娩室の窓の外では、上陸した嵐が吹き荒れていました。
あぁ、まったくもう……ねぇ?
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by uts_home | 2008-10-13 00:54 | コラム
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