【風の中でボクらは】
白い帆に風をはらませて、海の上を走るヨットの原理をご存知でしょうか?
ヨットは動力を持たず、またヒトが漕いで前進するのでもなく、まったく純粋に風の力だけで動きます。
人類が丸木舟や葦を編んだ船で最初に海に乗り出したころは、推進力はヒトが手で漕ぐだけでしたが、すぐに帆を揚げて、風の力を利用することをおぼえました。
古代エジプトでは、数千年前から帆走する船があったそうです。
しかしその原理は、船の進行方向に対して直角程度に張り渡した帆に風を受けて、後ろから押されることによって前進するだけであり、ほぼ風下方向に推進するコトに限定されたものでした。
これを横帆と云います。
そのため航海する方向が限定され、漕ぎ手を併行して使ったり、風待ちの必要があったりと、ついやされる労力も時間も効率的ではありませんでした。
また風向きが変化しやすい、沿岸付近での操帆がむずかしかいといった欠点もあります。
そこで人類は、やがて風上方向へ進むための技術を考えだします。
縦帆の登場です。
船の進行方向に併行して帆を張り、前方から風を受けます。
帆によって分散した風は帆の両面を吹きぬけていきますが、その時帆はどちらかの方向にはらむのです。
そのため、はらんだ帆にそって吹きぬけていく風の速度は速く、反対側は遅い現象が生じ、はらんだ帆の側に対する“力”が生じるのです。
この“力”がヨットの推進力になり、風の力が強ければ強いほど、その“力”も大きくなります。
「揚力」の原理です。
ちなみに鳥の羽根や飛行機の主翼もこの原理で、身体や機体を上方に持ちあげる働きをします。
そのため、万が一飛行機のエンジンが停止した場合でも、そのまましばらくは滑降するコトが可能だそうです。
ただしそのままでは、ヨットはどこまでも横に流されていくばかりですので、海中にはその“力”を、前方への推進に変えるための板――センタァボォドなど云います――が伸びています。
実際の構造はそんなに単純なモノではありませんが、簡単に説明するとそんなカンジです。
操帆も複雑になり、風を推進力に変える力も横帆劣りますが、機動性に長け、何より前方からの風を推進力に変えるコトができる利点が画期的です。
さてこうして人類は、風の力をより自在に航海に使うコトができるようになり、海上での活動はより広大かつ迅速なモノとなっていったのでしょう。
しかしどんなに技術が進んでも、限界はあります。
たとえ縦帆でも、風の吹いてくる方向から前後45°ずつ、前方の90°のエリアには進むコトはできません。
そのエリアに船首を向けると、バタバタとなるばかりで、帆が風をはらめないのです。
つまり――ヨットは前方45°までしか、風上方向に進むコトができないのです。
だからヨットのレェスも風上にむかう時は(そんな風にコォス設定される)、ジグザグに走るしかないのです。
風上にむかってギリギリ進める45°の方角である程度進んだら舵をきって、今度は反対方向に45°の角度で進んでいく。しばらく進んだらまた舵をきって45°の角度で進んでいく。そしてまた同じように……
ソレを何度も繰り返して、ようやくゴールにたどり着くのです。
ゴォルは見えている、方向もわかっている、でもまっすぐ進むコトはできません。
でも進むのをあきらめない限り、いつかはゴォルに到着します。
だからどんなにまどろっこしく思っても、ボクたちは風にむかって、そのようにして前進するコトしかできないのです。